古物台帳をデータで持つときに、法律が求めている3つのこと

データで持つこと自体は、認められています

副業で古物商を始める準備をしている個人開発者です。最初の記事で「古物台帳の様式は自由で、エクセルでもクラウドでも構わない」と書きました。これは事実なのですが、データで持つ場合には、紙とは違う条件がいくつかつきます。今回はそこを詰めます。

私はいま台帳をクラウドサービスとして作っているので、この条件は設計の前提そのものでした。「データで保存してよい」と「どんな形でもよい」は違います。条文と通達を読むと、法律が求めているものはかなりはっきりしていて、しかもツールを選ぶときのチェックポイントにそのまま使えます

結論:求められているのは3つです

  • 営業所で「直ちに書面に表示」できること——実質的には、その場で印刷できる状態にしておくこと
  • 3年間の保存。ただし起算点が紙とは違います
  • データを失ったら、所轄の警察署長に届け出ること——見落とされがちですが、法律上の義務です

順に見ていきます。3つ目は特に、知らないと対応できない類のものです。

1. 「直ちに書面に表示」とは、結局どういう状態か

根拠は古物営業法第18条第1項です。電磁的方法による記録について、「営業所において直ちに書面に表示することができるようにして保存」しなければならない、と定めています。

この「直ちに」がどの程度なのかは、条文だけでは分かりません。ところが警察庁の解釈運用基準(通達)に、かなり具体的な説明があります。

フラッシュメモリやハードディスク等へ入力した記録を直ちにプリントアウトできるように、各営業所等にプリントアウトに必要な機器等を備え付けておくことが必要である

つまりプリンタを営業所に置いておくことが求められている、ということです。データがあるだけでは足りず、それを紙にできる状態までがワンセットになっています。自宅を営業所にしている方は、この点を意識しておく必要があります。

なぜここまで求められるのか。これは警察の立入りを想定した規定です。帳簿の確認に来たときに、その場で見られる形で出せなければ、帳簿を備え付けているとは言えない——そういう発想だと考えると筋が通ります。

クラウドで持ってよいことも、同じ通達に書かれています

そして、この直後にこう続きます。

ただし、各営業所等において当該記録をプリントアウトすることが可能である限り、データ自体は本社や本部のコンピュータにおいて一括管理することも許容される

データの置き場所が営業所の中でなくてもよい、と明記されています。クラウド型のサービスで台帳を管理することが認められる根拠は、ここに求められます。手元のパソコンにファイルがなくても、営業所からアクセスして印刷できるなら要件を満たす、という整理です。

逆に言えば、クラウドかどうかは本質ではありません。問われているのは「営業所で、直ちに、書面にできるか」の一点です。これは私が台帳サービスを作るときに最初に置いた設計上の軸でもあります。出力に手間がかかったり、その場で完結しなかったりすると、この要件に照らして不安が残ります。だからコブチョウでは、様式15号のPDFがボタンひとつでその場で開く形にしました。

2. 3年保存の起算点が、紙と電子で違います

ここは意外と知られていない部分だと思います。同じ第18条第1項を、紙と電子に分けて読んでみてください。

保存の形 条文の書き方 3年の起算点
紙の帳簿 「最終の記載をした日から三年間」 その帳簿に最後に書き込んだ日
電磁的記録 「当該記録をした日から三年間」 その記録をした日(1件ごと)

紙のノートで台帳をつけている場合、起算点はノート全体の最終記載日です。通達も「最終の記載をした日」を「当該帳簿等使用の最終日」と説明しています。1冊を長く使えば、最初のほうに書いた取引も、結果として長く保存されることになります。

一方、データの場合は「当該記録をした日」から、つまり記録それぞれについて3年です。1件ごとに保存期間が動いていく形になります。

実務上どう効くかというと、データを整理・削除するときの判断が変わります。紙の感覚で「まだ帳簿を使っているから全部残っている」と考えていると、電子では個別に期限が来ている記録があり得ます。逆に、うっかり古い記録を消してしまえば、それは保存義務違反になり得ます。

ここから導かれる実務的な結論はひとつで、迷ったら消さないことです。3年を過ぎたからといって消す義務はありません。誤って必要な記録を消すリスクのほうがはるかに大きいので、削除ではなく非表示にして残す運用にしておくほうが安全だと思います。

3. データを失ったら、警察署に届け出る義務があります

これが、いちばん知られていない規定ではないでしょうか。第18条第2項です。

古物商又は古物市場主は、前二条の帳簿等又は電磁的方法による記録をき損し、若しくは亡失し、又はこれらが滅失したときは、直ちに営業所又は古物市場の所在地の所轄警察署長に届け出なければならない

帳簿を破損した、失くした、消えてしまった——そのときは、直ちに所轄の警察署長へ届け出ることが義務づけられています。紙が燃えた場合だけの話ではなく、電磁的方法による記録も明記されています

データで台帳を持つということは、この義務が現実味を帯びるということでもあります。パソコンの故障、誤操作による削除、ストレージの障害。紙よりも「一瞬で全部消える」可能性がある分、リスクの質が違います。

だからこそ、バックアップは法令上の明文の義務ではないものの、この届出義務を考えると実務上ほぼ必須だと考えています。自分のパソコンだけにファイルを置いている状態は、故障が即座に届出案件になるということです。クラウド型を選ぶ理由のひとつは、ここにもあります。

データで台帳を持つときのチェックリスト

以上を、ツールや運用を点検する形にまとめます。

  • 営業所でその場で印刷できるか(プリンタを含む。出力に時間や手間がかかる仕組みは不安が残る)
  • 記載事項がすべて揃っているか(特に確認方法の欄。ここが抜けている台帳は少なくありません)
  • 3年分の記録が確実に残るか(電子は記録ごとに起算。消さない運用にできるか)
  • データが失われない仕組みがあるか(失えば届出義務。バックアップの所在を把握しているか)
  • 様式15号の形で出せるか(データの一覧表と、法定帳簿の体裁は別物です)

なお、電磁的方法で保存する場合の基準について、施行規則第19条は「国家公安委員会が定める基準を確保するよう努めなければならない」と定めています。努力義務の形なので、ここを根拠に特定の製品でなければならない、という話にはなりません。本質はあくまで第18条の3つの条件です。

よくある誤解

  • 「クラウドは法律が想定していないから危ない」——通達が本社等での一括管理を明示的に許容しています。問題はデータの置き場所ではなく、営業所で印刷できるかどうかです
  • 「データで持っていれば、印刷環境は要らない」——通達は営業所にプリントアウトに必要な機器を備えることを求めています
  • 「3年経ったら消さなければならない」——3年は保存すべき下限であって、消す義務ではありません
  • 「データが消えても、自分が困るだけ」——第18条第2項により、直ちに所轄警察署長への届出が必要です
  • 「エクセルのファイルがあれば、それが台帳」——記載事項を満たし、様式に則った形で出せて初めて法定の帳簿として機能します

おわりに

古物台帳をデータで持つことは、法律がはっきり認めています。ただしそれは「何でもよい」という意味ではなく、紙と同じ機能を果たせる状態を保てということでした。その場で紙にできること、3年間確実に残ること、失ったら申告すること。この3つが揃って初めて、データの台帳が紙の代わりになります。

逆に言えば、この3つを満たしているなら、データで持つほうが有利な場面は多いはずです。検索できる、集計できる、消失に備えられる。紙の帳簿にはできないことです。条件を知ったうえで選ぶことが、いちばん確実な備えだと思います。

台帳をデータで持つときの条件を、道具の側で満たしておきたいという発想から、コブチョウは様式15号のPDFがその場で開き、記録が消えない形で残るようにしています。いま使っている方法と見比べてみてください。

次回は、この記事の裏返しとして「古物台帳をエクセルで作る方法と、その限界」を取り上げる予定です。

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※この記事について
電磁的記録による保存の可否や求められる水準は、所轄の警察署によって指導の細部が異なる場合があります。最終的な判断は、管轄の警察署(生活安全課)にご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談ではありません。

参考(一次情報)

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