選択肢が決まっている欄なのに、なぜ迷うのか
副業で古物商を始める準備をしている個人開発者です。台帳の「特徴」欄について前回書きましたが、今回はその隣にある「区別」欄です。
この欄は、特徴欄とは性質が正反対です。特徴欄は自由記述で「どこまで書けばいいのか」に迷いますが、区別欄は書くべき言葉があらかじめ決まっています。にもかかわらず迷いが生じるのは、決まっているという事実そのものが知られていないからです。エクセルで自作した台帳に「交換」「返品」といった選択肢を用意している例を見かけますが、これらは様式が想定していない言葉です。
私自身、台帳をアプリとして作る過程でこの欄の選択肢を実装する必要があり、条文と様式を確認しました。そのとき、自分が当初用意していた選択肢が法令とずれていることに気づいて修正した経緯があります。今回はその整理を共有します。
結論:受入れは2つ、払出しは3つ
書くべき言葉は、様式第15号の備考1に明記されています。
「受入れ」の「区別」欄には買受け又は委託の別を記載し、「払出し」の「区別」欄には売却、委託に基づく引渡し又は返還の別を記載すること。
整理すると、こうなります。
| 書くべき区別 | 選択肢の数 | |
|---|---|---|
| 受入れ(古物を受け取ったとき) | 買受け/委託 | 2つ |
| 払出し(古物を引き渡したとき) | 売却/委託に基づく引渡し/返還 | 3つ |
ポイントは、受入れと払出しで語彙が違うことです。受入れ側に「売却」がないのは当然として、受入れ側に「交換」も「返品」もありません。ここが実務でずれやすいところです。
4つの言葉が指しているもの
それぞれの言葉が、どういう取引を指しているのかを確認します。区別欄の本質は、その品物の所有権が自分に移ったかどうかにあります。
受入れ:買受け と 委託
買受けは、代金を払って自分のものにする、いわゆる仕入れです。副業でせどりをしている方の取引は、ほぼこれに当たります。
委託は、持ち主から「売っておいてほしい」と預かることです。この場合、品物の所有権は預けた人のままで、自分のものにはなっていません。売れたら手数料を受け取り、売上を持ち主に渡す、という形です。
なお、委託を受けて売買することも、法律上は古物営業に含まれます。古物営業法第2条第2項第1号は、古物営業を「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業」と定義しています。「買い取っていないから古物商の話ではない」とはならない、ということです。
払出し:売却・委託に基づく引渡し・返還
売却は、自分が買い受けた品物を売ることです。買受けで受け入れたものが出ていくとき、こちらになります。
委託に基づく引渡しは、預かっていた品物が売れて、買主に引き渡すことです。同じ「売れた」でも、自分の所有物ではないので「売却」とは書きません。受入れが委託だった品物は、払出しも委託の系統の言葉になると考えると分かりやすいと思います。
返還は、預かっていた品物が売れなかったので、持ち主に返すことです。これも委託の系統で、買受けた品物には起こりません。
つまり受入れと払出しは対応しています。買受けで入ったものは売却で出る。委託で入ったものは、売れれば委託に基づく引渡し、売れなければ返還で出る。この対応関係が頭に入っていれば、迷う場面はかなり減ります。
「交換」「返品」はどこへ行ったのか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
先ほど触れたとおり、備考1が挙げている受入れの区別は「買受け」と「委託」の2つだけです。「交換」も「返品」もありません。
これは少し意外に感じられるかもしれません。というのも、古物営業法の条文自体には「交換」という言葉が何度も出てくるからです。法第15条も「古物を買い受け、若しくは交換し」と書いていますし、第2条の定義にも交換が含まれています。交換という取引形態が想定されていないわけではないのです。
それでも帳簿の区別欄には交換という選択肢が用意されていない。ここは条文と様式で扱いが揃っていない箇所なので、私は断定を避けたいと思います。実際に交換取引をする場合に区別欄へ何と書くべきかは、所轄の警察署に確認するのが確実です。少なくとも言えるのは、「様式が挙げている言葉は買受けと委託の2つである」という事実だけです。
「返品」については、もう少しはっきりしています。前々回の記事で書いたとおり、自分が売却した物品を、その売却の相手方から買い戻す場合は、そもそも確認・記帳の義務が免除されます(古物営業法第15条第2項第2号)。義務の対象外なので、帳簿に「返品」という区別を立てる必要がない。区別欄に返品がないのは、こういう理由だと考えると筋が通ります。
自作のエクセル台帳を使っている方は、選択肢が備考1のとおりになっているかを一度確認してみてください。私は自分のアプリで、受入れの選択肢を法令に合わせて買受けと委託の2つに絞り、委託で受け入れた品物が売れたときには払出しが「委託に基づく引渡し」になるよう自動で切り替わるようにしました。コブチョウでそうしているのは、受入れの区別が決まれば払出しの語彙も決まる、というこの対応関係を、入力する人に毎回考えさせたくなかったからです。
ついでに知っておくと得をする備考4
区別欄からは少し離れますが、同じ備考の中に、実務で効く緩和が書かれているので触れておきます。備考4です。
現に使用している帳簿に既に住所、氏名、職業及び年齢が記載してある者については、氏名以外の事項で異動のないものの記載は、省略することができる。
同じ相手と繰り返し取引する場合、2回目以降は氏名だけ書けば、住所・職業・年齢は省略できるということです(変更がない限り)。ただし条件があります。「現に使用している帳簿に既に記載してある」ことが前提なので、別の帳簿に書いてあった、以前の帳簿に書いてあった、では足りません。また氏名は毎回必要で、省略できるのは氏名以外です。
常連の相手方がいる場合には、記帳の手間がかなり変わってくる規定です。
よくある誤解
- 「受入れの区別に『交換』を選べる」——備考1が挙げているのは買受けと委託の2つです。交換取引の記載方法は所轄の警察署にご確認ください
- 「委託で預かった品が売れたら『売却』と書く」——「委託に基づく引渡し」です。自分の所有物ではないためです
- 「買い取った品を持ち主に戻したら『返還』」——返還は委託の系統の言葉です。買い戻しはそもそも義務が免除されます
- 「委託は買い取っていないから、古物商としての記録は不要」——委託を受けて売買することも古物営業に含まれます(法第2条第2項第1号)
- 「常連さんは何も書かなくていい」——省略できるのは氏名以外の事項で、しかも同じ帳簿に記載済みであることが前提です
おわりに
区別欄は、書くべき言葉が決まっている以上、知ってさえいれば迷わない欄です。受入れは買受けか委託か。払出しは、買い受けたものなら売却、預かったものなら委託に基づく引渡しか返還か。この対応関係が分かれば、あとは機械的に決まります。
そして、この欄を正しく書けるかどうかは、自分がその品物の所有者なのかどうかを意識できているかとほぼ同じことです。買い取ったのか、預かっているのか。会計上も税務上も意味が変わってくる区別なので、台帳の1列であると同時に、自分の商売の状態を映す欄でもあります。
受入れの区別に応じて払出しの言葉が決まる仕組みを台帳側に持たせておくために、コブチョウは仕入れの記録から台帳の区別まで一続きになるようにしています。記帳のたびに言葉を選び直す負担を減らす道具として使ってみてください。
次回は、記事の中で何度か触れてきた「確認方法」欄——相手方の確認としてとった措置を、実際にどう書き表すのかを取り上げる予定です。
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※この記事について
帳簿の記載方法の細部、特に様式が明示していない取引形態(交換など)の扱いについては、所轄の警察署によって指導が異なる場合があります。最終的な判断は、管轄の警察署(生活安全課)にご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談ではありません。
参考(一次情報)
- 古物営業法(e-Gov 法令検索)(第2条第2項=古物営業の定義、第15条第2項=確認等の免除、第16条=帳簿等への記載)
- 古物営業法施行規則(e-Gov 法令検索)(第17条=帳簿等の様式)
- 警視庁「帳簿の様式」(別記様式第15号・備考1〜4)
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