「メルカリで買っただけなのに、本人確認?」という違和感から
副業で古物商を始める準備をしている個人開発者として、自分が仕入れに使う想定でいるのはメルカリです。ラクマも見ますが、主戦場はメルカリになりそうだと思っています。そうやって実際の運用を考えていくと、早い段階でひとつの疑問にぶつかりました。メルカリで仕入れるとき、相手の本人確認はどうすればいいのか、という問題です。
古物商には、古物を買い受けるときに相手方の住所・氏名・職業・年齢を確認する義務があります。対面の店舗なら運転免許証を見せてもらえば済む話ですが、メルカリは非対面で、しかも匿名配送が標準です。相手の本名も住所も、こちらには分かりません。「買っただけなのに本人確認なんているのか」という感覚もあると思います。この記事は、その食い違いを条文まで下りて整理したものです。
結論:まず「確認が要る取引かどうか」で二段構えになります
先に要点をまとめます。メルカリ仕入れの本人確認は、次の順序で考えると整理できます。
- そもそも確認が要らない取引が多い。前回の記事で書いたとおり、対価の総額が税抜1万円未満で、かつ例外品目でなければ、確認も記帳も免除されます。少額の仕入れが中心なら、多くはここに収まります
- ただし例外品目と1万円以上は別。書籍・ゲームソフト・CD/DVD等は金額に関係なく確認が必要です。1万円以上の取引も、品目を問わず確認が必要です
- 確認が必要なケースで、メルカリの匿名取引は法定の方法と噛み合わない。ここが実務の急所です。非対面の確認方法は法律で細かく定められていますが、そのどれもが「相手が住所や本人確認資料を出してくれること」を前提にしていて、匿名配送のフリマ取引とは相性が良くありません
つまり本当に考えるべきなのは、「メルカリで本人確認をどうやるか」ではなく、「本人確認が必要になる仕入れを、そもそもメルカリの匿名取引でやってよいのか」という一段手前の問いだった、というのが私の結論です。
法令の根拠:確認の方法は4つ、その原則は対面
古物営業法第15条第1項は、古物を買い受けようとするときの確認方法として、次の4つのいずれかをとるよう定めています。
| 号 | とるべき措置 |
|---|---|
| 1号 | 相手方の住所・氏名・職業・年齢を確認する(=身分証明書等の提示を受ける、など) |
| 2号 | 住所・氏名・職業・年齢が記載され、相手方の署名がある文書の交付を受ける |
| 3号 | これらの情報について電子署名がされた電磁的記録の提供を受ける |
| 4号 | 1〜3号に準ずる措置として国家公安委員会規則で定めるもの |
このうち1号の身分証明書等の提示も、2号の署名も、本来は対面を前提にした方法です。施行規則第15条第2項は、2号の署名について「当該古物商又はその従業者の面前において」記載されたものでなければならない、とはっきり書いています。つまり、法律がまず想定しているのは相手と顔を合わせる取引で、メルカリのような非対面はそのままでは1号にも2号にも乗りません。
そこで効いてくるのが4号の「準ずる措置」です。非対面で使える方法は、施行規則第15条第3項に13種類、列挙されています。
非対面の確認は13通り。ただし、どれも「相手が情報を出す」前提
13の方法をすべて並べても読みづらいので、性質ごとにまとめます。共通しているのは、どの方法でも「相手方からその住所・氏名・職業・年齢の申出を受ける」ことが必ずセットになっている点です。これは通達(警察庁の解釈運用基準)が、各号について繰り返し確認しています。相手が自分の情報を差し出すところから、すべてが始まります。
| タイプ | 該当する号 | 中身のイメージ |
|---|---|---|
| 郵便で本人性を担保 | 2号・3号 | 本人限定受取郵便を送って到達を確かめる。代金を本人限定受取郵便で送る約束をする |
| 公的書類の送付+転送不要郵便 | 4号〜7号 | 住民票の写しや本人確認書類(の写し)を送ってもらい、その住所へ転送しない郵便を送って到達を確かめる。口座振込と組み合わせるものもある |
| 実印+印鑑登録証明書 | 1号 | 申出を受けたうえで、印鑑登録証明書と、その実印を押した書面を送ってもらう |
| ソフトによる画像送信(いわゆるeKYC) | 4号・8号・9号 | 古物商が提供するソフトで、本人確認書類や顔の画像を撮影・送信させる |
| 公的個人認証・電子証明書 | 11号・12号 | マイナンバーカードの電子証明書などで、電子署名された情報の提供を受ける |
| 二度目以降の省略 | 13号 | 一度きちんと確認した相手にID・パスワード等を割り当て、次回以降はそれで本人性を確かめる |
ここで、メルカリ仕入れの現実と突き合わせてみます。
まず、これらはすべて相手が自分の住所や本人確認書類を、こちらに向けて出してくれることが前提です。ところがメルカリの匿名配送では、購入者であるこちらに、出品者の本名も住所も表示されません。発送元も匿名です。相手の情報を得る入口が、そもそも塞がっています。
eKYCにあたる8号・9号は「古物商が提供するソフトウェアを使用して」撮影・送信させることが条件で、通達も、なりすまし防止のためにこの限定が置かれていると説明しています。第三者のフリマアプリの画面を見せてもらう、といった形では要件を満たしません。13号のID方式も、最初に一度、正規の方法で確認していることが出発点なので、その最初の確認ができなければ話が始まりません。
結局のところ、非対面の13の方法は、自社サイトやアプリで相手と直接やりとりする買取業者を想定して作られています。プラットフォームを間に挟み、相手が匿名のままのメルカリ仕入れは、この想定の外にあります。これは私が実際に運用を組み立てようとして行き当たった、いちばん大きな壁でした。
では、どう畳むか
ここまで読むと不安になるかもしれませんが、順序立てて考えれば、打つ手ははっきりしています。
第一に、確認が要らない範囲を正しく使うこと。 メルカリで仕入れる品物の多くが、税抜1万円未満で、かつ例外品目でないなら、そもそも相手方確認は免除されます。副業で少額の仕入れをしている限り、実際にはここに収まる取引が相当あるはずです。免除される取引について、取れない本人確認に悩む必要はありません。
第二に、確認が必要になる仕入れは、確認できる形でやること。 書籍・ゲームソフト・CD/DVDのような例外品目、あるいは1万円以上の品物を仕入れるなら、相手方確認が必要です。そういう仕入れは、相手の身元が分かる形——対面の店舗やリサイクルショップ、あるいは相手の住所氏名を確認できる取引に寄せる、という判断があり得ます。「メルカリで安く本をまとめ買いする」というのは、例外品目である以上、金額が小さくても確認が必要になる、という点に注意が要ります。
第三に、自分が売った品物をその相手から買い戻す場合は、金額を問わず確認も記帳も免除されます(古物営業法第15条第2項第2号)。フリマでも、購入者から相談を受けて引き取る、といった形で起こりえます。
なお、確認義務が外れるのはこの2つの場合だけだという点は、押さえておいてください。「相手が古物商だから」「相手の身元が分からないから」といった理由で義務が外れる規定は、条文にありません。確認できないことは、免除される理由にはならないということです。
この整理を毎回、頭の中でやるのは正直しんどいものです。金額はいくらか、税抜だといくらか、例外品目に当たるか、相手は誰か——判断の分岐がいくつも重なります。仕入れの記録をつけるときに、金額と品目からこの判定が自動で立ち上がってくれれば、迷う時間はかなり減ります。私がコブチョウで、仕入れを登録すると例外品目や1万円未満の注意がその場で出るようにしているのは、まさにこの「毎回の判断」を無くしたかったからです。
よくある誤解
- 「消費者として買うのと同じだから確認は要らない」——継続的・反復的に仕入れて売るなら、それは古物営業です。一般の消費者としての購入とは扱いが変わり、相手方確認の対象になり得ます
- 「フリマは匿名なんだから、確認しようがなくても仕方ない」——免除されるのは、あくまで金額と品目の要件を満たすときだけです。「確認できないから免除される」わけではありません。確認が必要な取引で確認できないなら、その取引自体を見直す、という順序になります
- 「相手のプロフィール名やアカウントが分かるから確認済み」——ニックネームやアカウント名は、法律が求める住所・氏名・職業・年齢の確認にはなりません
- 「配送伝票の発送元を見れば確認できる」——匿名配送では発送元は表示されませんし、そもそも配送伝票は法定の確認方法として定められたものではありません
おわりに
メルカリ仕入れの本人確認は、「どうやるか」を考える前に「そもそも要るのか」を分けるのが先決でした。多くの少額仕入れは免除の中にあり、悩む必要がありません。一方で、本・ゲーム・CDのような例外品目や1万円以上の仕入れは、金額の大小に関わらず確認が必要で、そのときこそ匿名のフリマ取引という形と正面から向き合うことになります。
非対面の確認方法が法律に13も用意されているのに、そのどれもがメルカリ仕入れには噛み合わない。これは制度の不備というより、これらの方法が「相手と直接つながる買取業者」を前提に作られているということなのだと思います。プラットフォーム越しに匿名で仕入れる副業の側が、その前提の外にいる。だからこそ、免除の範囲を正確に把握して、確認が要る仕入れと要らない仕入れを自分で線引きできることが、思っていた以上に大切だと感じています。
取引のたびに金額と品目を見て「これは確認が要るのか」を判断するのは、慣れるまで負担です。コブチョウは、仕入れを記録していくだけでその判定の手がかりが出るようにしています。仕入れの入口を整理する道具として使ってみてください。
次回は、その仕入れを記録するときに一番迷いやすい「特徴」欄——何をどこまで書けばいいのかを取り上げる予定です。
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※この記事について
法令の解釈・運用は所轄の警察署によって細部が異なる場合があります。特に「どこまでが継続的な古物営業に当たるか」「個別の取引で確認が必要か」の判断は、最終的に管轄の警察署(生活安全課)にご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談ではありません。
参考(一次情報)
- 古物営業法(e-Gov 法令検索)(第15条=確認等及び申告)
- 古物営業法施行規則(e-Gov 法令検索)(第15条=確認の方法等。第3項に非対面の13の措置)
- 警察庁「古物営業法等の解釈運用基準について(通達)」(令和6年8月14日・丙生企発第272号)(第14=非対面取引における本人確認の解説)
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